今回ご紹介するのは、ゲーテの最も代表的な作品である『若きウェルテルの悩み』(Die Leiden des jungen Werthers, 1774)。
この作品は発表されるとたちまち、読者の大きな反響を呼ぶことになった。
その理由はなんといっても、衝撃的な物語の結末にあるのだが、これからじっくり見ていこう。
著者について
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe,1749-1842)はドイツで最も有名な作家の一人で、誰でも彼の名を聞いたことはあるはず。
ライプチヒで学ぶが、その進捗は芳しくなく、フランクフルトでの療養中に処女詩集である『新歌集』(1769)を発表している。
その後、父の意向でシュトラースブルクにて学び、文学的な素養を培うとともに、フリーデリケ・ブリオンとの恋愛を自身の詩作品に昇華させていく。
『ウェルテル』は彼の代表作品の一つであるが、その他『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』(1796)や、『ファウスト』(1831)も有名。
作品について
出版当時、ヨーロッパ中のベストセラーとなった本作品。
ゲーテの実体験をもとにした作品で、ヒロインであるシャルロッテのモデル、シャルロッテ・ブッフとの恋が下敷きになっている。
主人公ウェルテルによる、友人ヴィルヘルムに宛てた手紙の形式をとっているのが特徴。これを、書簡体小説と呼ぶ。
あらすじ
出会い
ウェルテルが新しくやってきた土地について、友人ヴィルヘルムに報告する手紙から物語は始まる。
ある舞踏会にてシャルロッテと知り合ったウェルテルは、彼女の虜になってしまう。しかし彼女には婚約者であるアルベルトがいるのだった。
シャルロッテに強く惹かれながらも、彼女の元を去るウェルテル。しかし、彼女のことを忘れることができない彼は、再び舞い戻る。
苦悩
ロッテに再会したウェルテルは、再び彼女とアルベルトの家に足繁く通うようになるが、彼のロッテへの想いは本人を苦しめていく。
当時の憂鬱に沈むウェルテルの内面について、彼の手紙の編者が物語に介入して説明を加える。その説明の中で次第に彼は、自ら命を捨てる考えに囚われ始めるのであった。
そして、クリスマス前にウィルヘルムへの最後の手紙を書いたウェルテルは、ロッテのもとに向かい、そこでの会話で平静を失ってしまう。
自害
後日、ロッテの前で朗読を行うウェルテル。そして感動のあまり、互いの距離は近づき、ウェルテルはロッテにキスを浴びせる。
ロッテはしかし身を彼から振り解き、彼は彼女に永遠の別れを告げその場を去るのだった。そして、少年にピストルをロッテとアルベルトから受け取らせる。
ついにピストルを手に入れたウェルテルは、ロッテ宛の遺書を書いたのち、引き金をひくのだった。
Point
ウェルテルブーム
作品の影響力は凄まじく、かのナポレオンも遠征の際に作品を7度も読んだのだそう。
さらに、ウェルテルをまね、彼の服装に身を包んで自殺してしまう人が多発したのは、ウェルテルブームの大きな特徴だ。
また、現代でも「ウェルテル効果」という言葉が使われているが、これは報道が自殺率に影響することを指す。この語の由来はもちろん、作品発表当時の自殺が増えたこと。
以上のことは、文学以外の領域でも、『ウェルテル』が影響していることの分かりやすい例の一つだ。
書簡体小説
手紙をベースにした小説に慣れていなかった僕は、『ウェルテル』を初めて手に取ったとき、とても新鮮な印象を受けた。
ところがこの書簡体小説の起源は、なんと一世紀のオウィディウスによる書簡詩にまで遡れるらしいから驚き。
16世紀ごろから郵便制度が改善され、日々の手紙を文学作品として扱う詩人らが登場してきたようだ。その後発展を続けたこの形式はしかし、19世紀ごろには衰退していった。
ウェルテルが書簡体小説の形式に従って語ることで、彼の内面的な告白が効果的なものとなる。それによって読者は、主人公の心の動きに直接触れながら読みすすめることができるのだ。
作品への批判
『ウェルテル』が発表された当初、この作品がそれまでの小説の常識を打ち破るものだったため、この作品への評価について、多く議論された。
『ウェルテル』を翻訳した高橋によれば、18世紀の小説の目的が主に「娯しませることと有益であること」(prodesse et delectare)であったのに対し、ゲーテは人間の生き方そのものを主題にしたという。
そこで生まれた非難が、ウェルテルの「自殺」についてだ。批判者は作品を自殺弁護の書として見なした。高橋も述べるように、この作品はそうした働きを主眼としていないのは明らかだろう。
ゲーテは執筆当時、ロッテとの恋愛から生への倦怠を抱えており、その感情を友人の自殺事件を巧みに結びつけ、『ウェルテル』を著した。それによってゲーテは自らの危機を克服したのである。
さいごに
ゲーテの数ある有名な作品のうち、とりわけ重要となる『若きウェルテルの悩み』。その影響力は現代に至ってもまだしっかりと残っている。
ゲーテの生涯を主題とした映画『ゲーテの恋 君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』では、作品が生まれた背景がかなり脚色を交えながら描かれている。
ドイツ文学を学び始めて間もない僕が、初めてドイツ文学関連の映画として観た作品なので、とても強く思い出に焼き付いている。
ぜひ作品を読んだ方は、映画も楽しんでみるといい。